ヘッドホンあれこれ-3
〜100円ヘッドホンのMECAT化〜
100円で販売されているヘッドホンを入手してきました。

聴感上もまた測定数値上も「価格相当の音」ですが、「100円のヘッドホンの音は「思ったよりも」きれいだ!」の声が多いのが事実。入手したこの製品も特に中音域が鋭くきれいです。ヘッドホンは中音域の再生能力が全てと言えるほどに重要。「もしかするともしかして?」、「本気で」挑んでみることにしました。

「完成」を目指します。

分解してみると、100円のヘッドホンとは思えないほどしっかり作ってあります。

まあ普通には、この価格でこれ以上の音を望んではいけないものと言えます。

低能率ではありますが、そうは言ってもかなり上等なドライブユニットが使われています。なるほど「きれいな音」がするわけです。

つまり、この程度のドライブユニットになると、1個20円だの30円だのというわけにはいきません。

つまり、ヘッドホン全体として100円で作るためには、ドライブユニットは何か問題があり、検査落ちしたものを使うことになるはずです。

そこでドライブユニットを検査してみます。

まずはDCR(直流抵抗値)の確認です。2つのユニットで大きくずれていなければ(よく使われている32(Ω)のものであれば2(Ω)前後まで)そのまま使えますが、ずれが大きいと使えません。数セット買ってきて、「ペア」をとる必要があります。

位相確認です。ここでは9Vの乾電池を使っています。例えばプラグ、TipはL側ホットですが、ここを正とした場合、ドライブユニットの振動板は「飛び出し」、つまり耳に正圧をかけるように動作しなければなりません。

巻線と端子の接続が逆になっているもの、マグネットが逆に嵌められているものも検査落ち対象品ですからチェックします。逆になっていても他に問題が無ければ接続を逆にするだけで使用できます。

実際、このヘッドホンのドライブユニットは、ひとつは巻線と端子の接続が逆、もうひとつは振動板が大きく凹み、コイルとマグネットが接触していました。

振動板の「へこみ直し」をします。

粘着テープを使って慎重、丁寧にへこみを引き出して直します。

また振動板に傷がついている、破れている、斜めに張られているといったものもあります。これらのものについては残念ながら使えません。

へこみなおし後、端子にテストトーンを印加、きちんと鳴るか確認します。音のみならず、ここでは各周波数についてインピーダンス測定もします。駄目なら数セット買ってきたものから「部品取り」をして特性の揃ったものを2個、用意します。

これでドライブユニットの準備OKです。ドライブユニットをコードから外します。

細く切った1mm厚さのフェルト(ポリエステルのフェルト)でドライブユニットの後ろの穴を塞ぎます。

これが最も重要で難しい作業になります。

穴に接着剤をつけ、接着剤で穴を塞いでしまうと良い音が得られないどころか最悪は振動板に接着剤がついてドライブユニットをダメにしてしまいますし、かといってしっかり接着しないと、やはり良い音は得られず、最悪はフェルトが剥がれ落ちてしまいます。

とにかく慎重、丁寧に作業を進めます。使う接着剤は固まるまでにある程度時間を要するもの(二液性エポキシ樹脂などが適します。)を使い、爪楊枝などで均一に穴以外の接着部分全てに塗り広げます。

次は筐体です。このヘッドホンの場合、バッフル板の穴を写真右のように拡げ、「おいしい音」を引き出します。
柔らかいコードの被覆を使い、ドライブユニットを支えるバネとします。
ドライブユニットをシリコーンシーリング剤を用いて固定します。ドライブユニットの振動板にシリコーンシーリング剤がつかないように慎重、丁寧に作業を進めて固定します。プラスチックのバッフル板への直接振動伝達を少なくする、またエア漏れさせないため、ドライブユニットをバッフル板に直接接触させず、シリコーンシーリング剤で隙間なく充填して固定します。
 

ドライブユニットの磁石には、弱いハード・フェライトの永久磁石が使われているため、ごく小音量としたときに低音の再現性が低下します。これを防ぐため、強力なネオジム磁石を貼り付けます。

ネオジム磁石は今は100円で何個か買えます。必ず同じ磁石を使い、LR同じ条件で貼り付けます。異なる磁石また同じ磁石でも貼り付けの条件を変えるとLRで音が揃わなくなります。

ウレタンスポンジを使って開口部を塞ぎ、密閉度を上げます。接着には合成ゴム系接着剤を使います。
コードをハンダ付け、そしてMECAT得意のネコの毛を均等に充填、閉じます。

ネコの毛がなければ、他の天然繊維、人工繊維で代用しますが、やはり天然繊維のほうが優れた効果を発揮します。ただし虫食いの問題を考えるならば人工繊維(ポリエステル綿など)になります。

プラスチックバッフル板からの直接振動が耳に伝わるのを抑えるため、フェルトを切り抜いて貼ります。ポリエステル、1mm厚さのものを2枚重ねとし、段差をなくすとともに制振します。写真ではわかりやすいように色違いとしていますが、もちろんこれは同じものでかまいません。接着には合成ゴム系接着剤を用います。ただしベタベタに接着する(フェルトの多くの部分を接着剤でガチガチに接着してしまうと)効果がなくなってしまいますから、使う接着剤の量は最低限、フェルトが脱落しない程度の少量とします。
これが耳との「あたり」をとり、音を決めます。厚さ1mmほどの汎用ポリエチレン製緩衝材を切り抜き、イヤパッドの裏側に貼ります。

中穴の直径は5mmほど発音面直径よりも小さくします。

接着にはシリコーンシーリング剤を使います。切り抜いたリング状の汎用ポリエチレン製緩衝材の片側全面に薄く塗り(厚塗りは×。硬くなっては意味がありません。)、ウレタンスポンジに浮きを起こさないようにピッタリ貼り付けます。

装着時、このリングが側圧によって変形、下の発音面プラスチックやポリエステルのフェルトと当たり、密閉を形成します。そして接着剤のシリコーンシーリング剤がイヤパッドの薄いウレタンスポンジ、横方向へのエア抜けを抑えます。

特に「上品な低音」を得るには、できるだけ振動板で発生させた「空気圧」のまま、鼓膜に送るのがコツになります。さらにこのドライブユニットは小口径、聴感上も中高音域が正確で鮮明ですからこの部分は重要です。

なおイヤパッドは消耗品です。予備のイヤパッドも1組、製作しておくとよいでしょう。

ヘッドバンドの黒い部分、その素材は何とポリアミド(商品名 ナイロンなど。)です。つまり今後の使用において「バキッ!」となるのは、下の白い樹脂部分であり、黒いヘッドバンド部分は「永久部品」です。

すなわち下の部分は予備品を買っておき、壊れたら作り直せばよい、つまり長く使用できるものであることから、しっかりした方法で側圧調整をすることにしました。

ガラクタ箱の中から探し出してきたものは、厚さ0.5mm、幅6mmのバネ鋼です。必要な長さで折り、ダイヤモンド工具でその両端に直径3.2mmの穴をあけ、適当な側圧が得られるよう、丸く曲げます。

熱処理の際、防蝕効果の高い黒皮(酸化鉄膜)がしっかりついていますので、そのままでかまいませんが、やはりそれでも赤錆が付いたら格好の悪いところ、塗装しておきました。

ヘッドバンドにも直径3.2mmの穴をあけ、リベットで締結します。

これでふにゃふにゃのヘッドバンドに「骨」が入り、しっかり側圧がかかるようになります。

耐久性に劣る素材が使われているものでは、もったいないですからここまでのことはせず、太めのピアノ線などとして、両端に引っ掛けて固定するような構造としてもよいでしょう。

できました。低音から高音まできちんとまっすぐな音、「100円のヘッドホンの音」はもう全くしません。測定数値上もモニターヘッドホンとみなせるところにまでなりました。「見栄え」は全くの100円のヘッドホンですが音は一級のモニタートーン、「完成」です。そしてこの音はほぼ、放送局の主調整室の音です。放送局の番組送出担当者がどんな音を聞いているのか、お試しになるのも面白いと思います。予想外のストレートトーンに驚かれると思いますが。

唯一残った欠点は、低能率で音圧不足であるという点です。しかしこのタイプのヘッドホンはそもそもじゃんじゃん音漏れするもの、実際、音圧不足といっても最大音量としたとき、その音漏れは周りが迷惑する程度になりますからこれで十分です。外音遮断機能のないこのタイプのヘッドホンは静かなところで小音量で聴くタイプのヘッドホンであり、騒々しい現場の業務用モニターには向いていません。

非売品です。自己責任でお試し下さい。
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