Forever ELEGA
ヘッドホンあれこれ-9
ELEGA DR-531/631用イヤパッドの検討
純正使用済みイヤパッドを再利用する「耳覆い型」イヤパッドの提案
先達の高度技術に最新の材料技術を合わせてより使いやすい531/631に
「ダイナミックス」 「デリカシ−」 「プレゼンス」 基本の3要素をより高度に
エレガのヘッドホン、DR−531、631は「密閉プレッシャー型」と呼ばれる特殊なもので、極端に言ってしまいますと「音波」を鼓膜に送るのではなく「空気圧差」を直接、鼓膜に送るタイプのものです。すなわち、ぶ厚い振動板で空気をガンガン押し引きして鼓膜を直接、振動させるものとされています。
従ってイヤパッドが劣化すると(破れなどが生じると)どうしようもなくなってしまいます。業務用ですから、イヤパッドもヘッドバンドと同じくきちんと手入れをしながらであれば、長年にわたり使用できるのではありますが、それでもボロボロになってしまったらどうするか…
純正品交換とするのがベストですが、今回、純正のさらに「原点」に立ち返り、チャレンジしてみました。
DR−531、631のイヤパッド、そのはじめは以下の写真のものでした。
今の一般的なイヤパッドとほぼ同じ形状のものとされていました。何と「耳覆い型」です。(と言っても耳介を穴の中に押し込む格好になるのですが。)これは昭和39年当時のNHKの「設計指定」=BTSにも規定され、藤木電器はそれに忠実に従って製作しています。
しかしこれはその後「はんぺん状」の「耳当て型」に代えられました。理由は「十分な密閉が得られない」ためでした。
根本的に当時の「材料の限界」からでした。硬いゴムに布張りでは、平面でピタッと密閉の得られるカプラー試験ではOKでも「十人十色、でこぼこ」のヒトの頭ではそうはいきません。しかし「ぶ厚いゴムの縁」を持つこのイヤパッドの性能は相当なもので、かなりいい音を得ることができます(今聴いても普通に数万円の高級ヘッドホンの音。1953年当時としては革命的な音であったはずです。)。私はこのはじめのイヤパッドを現場で使ったことはありませんが、先輩諸氏によると「隙間から音もれする。仕方がないのでここ一番のモニターのときには、痛みを堪えながら発音体を手でぐっと耳に押し付けて使っていた。」とのこと。
しかし後継イヤパッドとしたことにより、これはこれでまた不都合を生じました。すなわち、細かく調整してピタッと耳介にフィットさせないことには「音がずれる」、このヘッドホンは重いため、ヘッドホンが外れやすくなり、その分、側圧を上げないといけなくなった、結果、やはり痛い、さらに夏場は「蒸れて」たまらない、ひどいときには(夏場の屋外での長時間使用などでは)耳介がかぶれることがあるといったことです。このため後継イヤパッドとなってからも何度も材料変更など、改良が加えられています。
そしてこのイヤパッドとしたことによりBTSから外れるものとなってしまった(BTSにイヤパッドの形状と寸法指定があり、これから外れてしまうものになった。)ため、当面の間、NHK向け(当初のイヤパッドのまま)のものと後継のイヤパッドのものが併走することになってしまったようで、カタログ、パンフレットともに分けられています。あのBTSは「規格書」ではなく「仕様指定書」です。日本人の苦手とするところで、全く「柔軟性」がありません。5年もすれば新知見で旧技術は駆逐されるものですから、ここを第一とし、「必要から普遍・基本のところ」をしっかり定めるのが「規格」です。さもなくばすぐに陳腐・形骸化してしまい、役に立たない、かえって邪魔なものになってしまいます。ヘッドホンではそもそも、イヤパッドの寸法だの形状だのを定める「必要」からしてなかったはずなのですが。事実、同様のことはBTSの随所にみられ、BTSは莫大な税金と受信料を投入して制定したにもかかわらず、すぐに陳腐・形骸化がはじまり、結局、半世紀もたずに全廃されてしまいました。
けれどもこのイヤパッドとしたことの効果は大きく、一般にも販売できるようになった(一般でも比較的簡単に使えるようになった)ことから、藤木電器は以下のパンフレットと共に広くDR-631Cの一般向け販売を始めています。(パンフレット内に事実と整合しなくなっているところがあり、その部分はカットしています。)
実は一般向けにも業務用機としての実績を謳い、当初から「音楽用高級機」として発売しています。一般に言われる「人の声用」というのは後に世で言われるようになったことです。確かにイヤパッドが劣化すると、エア漏れのため上下の周波数特性がガクンと落ちてしまいますし、装着がまずくてもそうなることから、そうなったのでしょう。
「耳当て型」に対し、耳介を包み込む「耳覆い型」のイヤパッドは理想的なものです。つまり耳介ではなくその回りの頭部で密閉をとることから、耳介の形状の個人差による、使える、使えないがおよそ起こらない、また少しぐらいラフな装着でも十分な密閉を得やすく、さらに高い側圧としても分散されて痛くなく、イヤパッド部自体にヘッドホンの固定を担わせることができる、すなわちヘッドバンドとあわせて3点固定となることから、ヘッドホンが外れにくくなります。このため大型、重いヘッドホンには好んで「耳覆い型」が用いられ、小型軽量のヘッドホンに「耳当て型」が用いられます。
また「耳覆い型」には、簡単な構造でも発音体の不要振動の頭蓋伝導を抑える高い効果を期待できます。これは即ち「不要な骨伝導」の抑制であり、結果「頭蓋内エコー」を抑制できることから、「ダイナミックス」が向上します。オ−ルデジタル、「最低でもCD規格音源」となっている今、「ダイナミックス」はヘッドホンに求められる重要な性能のひとつとなっています。優れた「ダイナミックス」がないと、デリカシーもプレゼンスもありません。しかしここは他におよそない「密閉プレッシャー型」の強み、DR−531、631の発音体そのものは、軽く160(dB)オ−バー、ほぼ生音のダイナミックレンジをカバーしています。すなわちいかに振動板で発生させた空気圧差を正しく鼓膜に伝えるかだけです。
けれども具体的にDR−531、631で理想的な「耳覆い型」を実現するためには、材料からの見直しが必要、簡単ではなく、高耐久低反発性ウレタン、高密着性合成布などのいわゆる「新素材」が必要です。しかしこれらの新素材は今、最新のものとしてイヤパッドに応用され始めています。そこで最新のこれに注目、これを簡単にイヤパッド保持板に取り付け、実用に供することを本気で考えてみました。
DR−531/631用イヤパッドは、イヤパッド本体とイヤパッド保持板に分解できますが、そのまま使うのはイヤパッド保持板です。

合成ゴム製のイヤパッド保持板の大きさは、約73×90mmですから、これに嵌め込むことのできる、柔らかくて高密閉性の新素材系イヤパッドをもってくればよいわけです。

とは言え、まだ新素材を用いたイヤパッドは数少ない状態、ただ幸いにしてこのサイズは標準的なこともあり、探してみるといくつか見つかりました。

例えばオーディオテクニカ、MSR7用のものが条件を満たします。これを使ってみました。

イヤパッド固定に使うのはCDです。このベース素材は1.2mm厚のポリカーボネートです。不用になったデ−タ用CDなどを使います。CDの中央の穴は保持板の穴と同じ大きさにまで、やすりなどを使って拡げます。
はさみ(ポリカーボネートはとても頑丈な材料です。金工に使用できるはさみを使います。1.2mm厚のものでも、普通一般のはさみでは、はさみが負けて切れなくなってしまいますから注意が必要です。)で切り出し、やすりとサンドぺーパで端面を整えます。薄膜コートは無水エタノールで落とします。
合成ゴム製の保持板に接着します。強力なゴム系接着剤を用い、「浮かさずに」中心部を広くピッタリ接着し、保持板のほうを少し歪め、折り返されているイヤパッドの取り付け部をポリカーボネート板と保持板との間に押し込み、装着時の側圧でイヤパッドの取り付け部をポリカーボネート板と保持板で自然に「締め留める」ようにして高気密を得ます。

なおイヤパッドはどうしても消耗部品となりますから、以降の交換の容易性を考えるならば、接着はゴム系接着剤ではなく、ごく薄いドーナツ状の両面テープなどとし、先にイヤパッドをポリカーボネート板に嵌め込み、そのまま保持板に貼り付けるようにしても良いでしょう。とにかくきっちり密閉することが肝腎です。

放送局のゴミ箱から拾って直したDR−631Cに装着、実聴です。「バッチリの音」が得られました。
確認のため「圧力計」と接続し、矩形波、20(Hz)でのイヤパッド内のエア圧変化を観てみました。
OKです。機械変換損失など、またそもそも空気は相当な弾性体のため、印加電圧波形とは絶対に同じ波形とすることはできませんが、低い周波数でアタマのところに2/3も直線部分が顕れれば、装着による特性落ちを考えても十分、実用に耐えます。

「お気に入り」のものがまたひとつできました。

何曲か試聴してみましたが、緩慢感(ぼんやりした感じ)なしの豊かで澄んだ鋭く切れの良い細やかな音、いわゆる「上品な音」であり、精確でも疲れない快適なモニター音です。

今でも他のヘッドホンにはおよそない、発音体そのもののワイドダイナミックレンジが前面に出て、特に複数同時に鳴る低音リズム楽器の聞き分け、同じく複数同時に鳴る弦楽器の聞き分けなどが格段に楽です。ハイレゾソースだと…「むふふ…」のいい音です。発音体の原理上、DR−531はダイナミックレンジは十分ですが、再生周波数が規定40kHzに及ばず、限界があります。(といっても聴感上は大差ありません。やはりダイナミックレンジです。)しかしDR−631では完全ハイレゾ対応になります。

実はぼちぼち暇なときにあれこれ試しながら作ったため、完成までに1年もかかっています。しかし結局は「電気音響」はあくまでもどこまでも「原理原則に逆らうことはできない」ということを再認識させられただけのことでした。

せっかくですから、見た目も意識して接着剤が見えないようにポリカーボネート板を塗装しました。ほとんど変わりませんが、音の反射を減らすために最新の特殊塗料を用い、さらに表面を荒らした塗装としています。

古の先達の高度技術、創意工夫の結晶に最新の材料技術が加わり、放送局のゴミ箱から拾ってきたDR−631Cが蘇りました。最高側圧にしても、耳も頭も全く痛くなく、装着状態で全力疾走しても、飛び跳ねても全くずれません。これならば台風中継だろうが何だろうがドンとこいです。でも、音声さんのほうがもちませんが…。

簡単にできますから、ボロボロになったイヤパッドをお持ちになっておられる方は、お試しになってみると面白いと思います。ただしイヤパッドの選択にあたっては、頭部とがっちり密着し、内部容積の少ないもの=必要最小限の厚さ、大きさのものとし、発音体にできるだけ耳介が接近する(純正イヤパッドと同じく、具体的に装着時、発音体面から外耳道まで(耳の穴まで)20(mm)以内です。)ものとして下さい。またイヤパッドの遮音性についてはDR−531、631ともに発音体そのもので独立して高度に逆相音遮断をしていますから考慮不要、音漏れ、また外音の飛び込みについて使用上、適切となるものを選択して下さい。
非売品です。自己責任でお試し下さい。
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