Forever ELEGA
ヘッドホンあれこれ-11
 BTS ファーストロット DR−631Cの修理
DR−631Cは、NHK仕様(NHK設計)品で、ベースとなっているのは中波AMステレオ放送用モニター、DR−531Cです。DR−531Cは現行電波法の施行(1950年)と今の放送体系が確立して間もない1953年、中波AM2波ステレオ放送用モニターとして開発されました。
日本の放送・通信分野の研究はドイツなどとは異なり当初より「民間用」、「国策」などとは基本的に無縁で進められたことから、戦前には既に世界トップレベル、ところがその一方で戦前の日本の電波は「国家権力完全掌握」、NHKも「私設局」(「国家権力より与えられた周波数」を使う無線局)に過ぎず、さらにはそれゆえに国の戦争遂行に「加担させられた」ことが戦後、逆に幸いし、国から多くの周波数を奪取、(これは当時のNHKや民間放送局に限らず現在も同じであり、国家権力の使用できる周波数はごくわずか、といいますか日米安保関係を除いて無く、国民の承認の得られたごくわずかな周波数のみを国家権力が使用しています。)実は現在もNHKラジオが第一、第二と2つの周波数を持つのは、当時の中波AM2波ステレオ放送の遺産です。
ただこのAM2波ステレオ放送は技術的進歩により、後に民間ラジオ放送各局で実施されたAM1波ステレオ放送(1992年3月〜)とは異なり短期間で終了(1952年12月〜1965年4月)、現在の超短波FMステレオ放送に移行しました。この超短波FMステレオ放送のために新規開発されたのがDR−631Cであり、1964年の発表です。
DR−531も高い完成度のものですが、FM放送はAM放送と異なり、広く帯域を使う高音質放送であることから、このとき既に現在の規格、「高音質デジタル」を念頭に置いていたNHKの技術要求は厳しく、DR−631はこれに応えたより高い完成度のものでした。
このときNHKはまた、放送の技術的信頼性を高める=主に放送機器やシステムの故障による放送中断などを減らすために「放送技術規格」=「BTS」という独自の技術規格を定め、以降、各放送機器メーカーにこれに従った機器やシステムの納入を求めるようになり、民間放送各社もこれに追従しました。DR−631Cを含む「DR−631シリーズ」は、それに応えた初、また唯一のヘッドホン(BTSは既に廃止されていますが、BTS開始から終了までの間に631シリーズの他にBTSに応じたヘッドホンは作られなかったためです。ちなみにBTSには例えばモノラル両耳ダイナミック型ヘッドホン(BTS型名DE−1)の外形まで明確に定められ、DR−631Aはこれに忠実に作らています。なお、ステレオ両耳ダイナミック型ヘッドホンのBTS型名はDES−1、これがDR−631Cです。)であり、製造者である藤木電器はBTSスタートの1964年(昭和39年)8月から直ちにBTS DR−631AおよびDR−631Cの製造を開始、NHKをはじめとする放送各社への納入を開始しています。
BTSスタートの昭和39年8月製造、あるラジオ局に納められ、新人局員に支給(永久貸与)されたDR−631Cです。あるインターネットオークションに出品されていました。

BTSにDR−631Cが規定されたのは昭和39年8月27日ですから、銘板刻印より最古のもの、これより以前の製造年月刻印がされている制式品はありません。初期も初期、ファーストロットのうちの1機で、よくもまあ、残っていたものです。

ヘッドバンドにあった「先輩の氏名」、レギュラーではないPJ−055BプラグLR分離(当該ラジオ局のみの指定仕様。BTSでは3CプラグLR分離)となっていたことから一目で本物と判断されました。

全く奇跡的なことに当社社員(当該ラジオ局元関係者。この記事を書いている私ではありません。)が偶然見つけて落札しました。結局は先輩から後輩の手に渡った格好です。

抜群の高音質と耐久性を有するDR−631は、放送局などに納入されたものの多くが先輩から後輩に、また個人持ちのものは親から子、あるいは親しい人に譲られていくもののため、一般中古市場にはごくたまにボロボロになったものしか出てきません。しかもこれはいちばんはじめのもの、その動作には全く期待せず、いわゆる「コレクション」としての落札でした。
しかし名札にあったお名前から、もとの所有者様に連絡、よく調べてみると、この機体は1990年に振動板交換、すなわち発音体内部のメーカー整備がされており、電気的には実はまだ新しい、実際、調べてみても、肝腎の発音体に全く異状はなく、精緻な音を出しますし、他、金物の傷みも大したことはなく、この程度ならば問題なく修理再使用できます。ハイ・インピーダンス機、プラグはPJ−055BのLR別、何とか接続したとしても、民生用ヘッドホンアンプでは小さく歪んだ音しか得られないため、普通に使えません。実際、真鍮のプラグ電極部は真っ黒、通電しないほどに発錆していた、また、あれこれとコードをいじった跡があることから、どうも放出後は、「お手上げ」になってそのままとされ、逆にそれが幸いしたようでした。もとの所有者様も、再生機器が変わり、ハイ・インピーダンス機は使い辛くなった、またジャックの入手が難しくなり、プラグ接続が面倒になったといったことから、新しいDR−631Cを購入され、これを知人に譲られたとのことでした。

キャリングポーチです。本物の藍染め、手刺繍でELEGAと入れられています。これだけでも今や相当な貴重品です。慎重にクリーニングをし、ほぼもとの状態としました。

イヤパッドです。BTS指定通りに作られているのですが、これは一体成型されたゴムの上に布を張っただけのもの。いくら調整しても痛い。実際、その後、変更されています。まだ使用可能な程度でしたが、これはもう新しいイヤパッドに交換、永久保存としました。
やはり、放送局で大切に使用されてきたもの、コードにも痛みはなく、通線修正と入力プラグの研磨のみで良好となりました。

しかし、ヘッドバンドの革はもうボロボロ、交換の必要があり、片側のリベット4本を抜いて取り外しました。

ただ幸いなことに「ぎりぎりセーフ」で革からの脂が効いており、中の鋼ベルトに発錆はなく、きれいな状態でした。

鋼ベルトと革の加工方法より、ヘッドバンドはオリジナルのまま、交換されていないことがわかりました。

永年使用に耐えるよう、最高級の本革を手間と時間をかけて丁寧に処理、さらに誤差約±0.5mmで精密に手縫いしてあります。、もう、革カバーだけで「高級ブランド品」です。しかも日本では一般にはもう絶えてしまっている技術が含まれています。「モノはモノが語る」ではありませんが、当時からの恐ろしいばかりの東京、大田区の「下町高度技術連携」を見せつけられました。新しいヘッドバンドと丸ごと交換するか、悩みどころになりましたが、「ファーストロットの希少性」を鑑み、「復元製作」となりました。

しかし、これをお引き受け下さる専門業者様がおられるかどうか…。「開発が専門」の平川製作所は、大体何でも自社で「意地でも」こなしますが、高度皮革加工は専門外の「ど素人」。

けれども瀬戸内海工業地域、広島の中小企業高度技術連携も東京に勝るとも劣りません。時間はかかりましたが1社見つかり、オリジナルのままに交換することができました。

発音体、ハウジングのタッチアップ塗装も実施、きれいに仕上がりました。これでまた長く使えます。
DR−531/631両耳型ヘッドバンドの革がボロボロになってお悩みの方は以下にご相談下さい。新規製作できます。ただし交換はご自分、自己責任で実施下さい。R側のリベット4本を抜くと交換できます。
革研究所広島店さま
DR−531/631のイヤパッドがボロボロになってお悩みの方は以下のぺ−ジをご覧下されば幸いです。ご自分で製作・交換できます。ただし製作・交換はご自分、自己責任で実施下さい。
ELEGA DR-531/631用イヤパッドの検討
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