ヘッドホンあれこれ-15
 (番外) キット 0.7W VTアンプのオーバーホール  
番外編です。ご存知の方はご存知の6BM8、0.7W出力のステレオアンプです。
「おっ、弁当箱サイズの真空管式じゃないの。ははぁ…なるほど、6BM8ね。日本ではオーディオアンプとしては見ないものだったけれど、海の向こうでは「ランチボックスオーディオアンプ」で、かなり作られて売れたものだったかな。値段は…うん、これなら1ヶ月、昼飯代を節約すれば何とかなる。この小出力で、日本でよく使われていた6CS7や6GW8などとしていないところも面白いからこれにしよう。」で、25年以上前に購入、組み立てたものです。このキットが販売されていた頃はまだまだ「電子工作」が盛ん=ラジオ少年がたくさんいた頃で、このキットは当時、「入門用」とされていましたが、現在の入門用のものとは比べ物にならない高難度の本格的なもの、それが幸いして25年以上の使用に耐えたといったところです。当時、この他に「上級者向け」の6L6、2A3、さらには300Bのキットなどがあり、これはもう単に「シャシだけ加工済み」のもの、つまり、ボール盤、フライス盤、旋盤、アーク溶接機、シャシパンチもろもろ、金属加工用工具をお持ちでないだけの、電気や電子工学を学び、難しい測定機器を自由に扱うことのできるセミプロからプロ向けのものだったでしょうか。それから比べると確かに「最低限、テスターひとつで何とか作ることのできる」このキットは「入門用」だったと思います。今になって思えばまさに「そんな時代もあったよね」で、隔世の感があります。当時の「テスター1丁」のラジオ少年はこのレベルのものでもこなしていたんですよね…。実際、中学校までの内容は今も昔もそう変わりませんが、昔は高校に入ってからの「詰め込み方」が違い、普通科でも高校2年修了時点で当時、全記述式であった第二級アマチュア無線技士も、学校で学んだ数学、物理学、化学、法律などの知識で十分にパスできる、高校卒業前にはもう第一級アマチュア無線技士や第三級無線通信士などをパスする者もいて(さすがに第二級無線通信士、第二級無線技術士以上は大学で専門を履修してからでないと難しかったですが。)、昔のラジオ少年、特に高校生になってからのレベルは高かったと思います。(今の高校、特に普通科では、例えば第二級アマチュア無線技士でも、過去問題集を解く前に、まずは必要な数学、物理学の「ハイレベル参考書」を自分で用意して勉強してからでないと合格は難しいと思います。私は昔の高校、特に普通科の個人の適性無視の「一律詰め込み」は「もう二度とご免」ですが、「生徒個人の興味・関心にあわせての詰め込み」には賛成、必要であるの立場で、今の高校教育はそれに応えていないと思っています。15〜18才は自我形成された直後、「詰め込み」に最適の年令であり、この時期に詰め込んだ知識・技能がその人の生涯の基礎になるからです。)、私はとうに本職になっていて「苦い思い出とともに少年時代の懐かしさで」購入、トランスケースを銀色に塗り、ボリュームつまみも変えてちょっと高級な感じにし(?)、8cmのスピーカにつないで使ってきましたが、さすがにもう2016年、あちこちにガタ、オーバーホールをすることにしました。
「まあ鳴ればいいや」程度のものですが、そうは言っても真空管回路、当時あれこれ考えて作っています。そのまま作るとS/Nが放送規格60dBに達しない(オリジナルのマニュアル通りに作ると、マニュアル通りS/N=54dBほど。ただし民生用としては十分です。)、ハムが気になることからスペース目いっぱい、コンデンサを追加して65dBとしたり、またこれは小型であるのはよいのですが、その分、部品配置などがセオリーから外れていてノイズの原因となるところがあちこち。これをノン・トラブルとするのは大変、また「おお喰らい」の6BM8にPCBで放熱が悪い、空中配線とPCBを併せた構造になっていることから、裏で線が擦れてパターンに当たると一大事、ぶ厚いプロテクタを加えたりなど、いろいろやっています。
開けてみると案の定、主に熱で、VR、PCB裏のリード線、ゴムブッシュ、プロテクタもろもろくたびれていました。今回、これらを全て交換しないといけません。
20年前にはなかった特性の良い線材や絶縁材を使用しての組み直し、ずいぶんすっきりしました。私は「ビンテージ部品」などにこだわらないタイプで、新しい部品を使うことができるならばどんどん使います。
幸いなことに今ではもう簡単には手に入らないチューブラ型の電源の高圧用電解コンデンサ、またPCBが健在、はじめは「全組み換え」を覚悟していましたが、これならばこのままちょこちょこと部品交換すればいけます。真空管ソケットを交換、PCB裏の配線もろもろ、今の高耐電圧、耐熱型のものに交換しました。これでまた当面、使えます。
出力トランス容量がぎりぎりということから、もとよりいわゆる「艶やかないい音」などは期待していませんが、どうにも「歪」が大きいのがこのアンプ。結果、「バレてしまう」大口径のモニタースピーカにつなぐことができずにこれまできていましたので、今回、それができるようにすべく、あわせて本気で回路を見直してみました。このあたりが昔から「使えりゃいい」の私の性格です。20年以上も「実用上支障なし」で放置していたと…。と言いますか、私は「真空管時代末期の人」で真空管から半導体への移行(固体化)に「狂喜」した人。煩わしい真空管はもう見たくもないことから、個人用のものはそれこそ「煙が出なきゃOK」、しかも6BM8はタフな汎用管で「少々、いい加減な使い方をしてもそこそこ音が出る」ことから当時、PCBはもう電源部以外、マニュアル通りに組み、細かく見ていませんでした。
6BM8は3極5極複合の汎用真空管で、真空管時代後期、欧州のトランスレステレビジョン受像機の偏向回路用として作られたPCL82を元にする、いわゆる「テレビ球」、3極部は高増幅率、5極部は高相互コンダクタンスで電流が得られる、すなわち音声増幅用に使うならばこれひとつで簡単に最大3Wくらいの出力が得られる、少々いい加減に使っても壊れないといったことから、主に欧州でテレビ、ラジオ受信機から簡易ポータブル型のテープレコーダなどまで広く使われました。しかし後期(といいますかもう末期)、トランジスタとの市場競争になってからの真空管、その性能要求による「小型化ぎゅうぎゅう詰め設計」、さらにヒータ電流は0.8A弱と「おお喰らい」、回路設計はラフでもかまいませんが、実装では放熱にかなり注意しないといけない、また内部構造が複雑精緻なため、その「ほどほどの性能」(5極管部は6AR5よりは上だが6BQ5より下。3極管部とあわせると6AV6+6AR5としたものと大体同じくらいといったところ)の割に高価といったことがあり、日本ではあまりなじみのなかった真空管、むしろ固体化後、近年の真空管アンプブームになってから「入門用」として知られるようになったもののひとつであろうと思います。
この6BM8アンプの回路、汎用管であることからさまざまで、真空管メーカーからの「推奨回路」もありません。そこで原点、トランス規格表と真空管規格表を観て細かく計算してみると、このキットの回路と部品また構造では、5極管部のプレート、スクリーングリット電圧を少し下げ、さらにもう少しプレート電流を流したほうが良い、3極管部の各部品定数選定をもっと細かくしたほうが良い、3極管部、カソード抵抗はオリジナルの定数で概ねOK、カソードのバイパスコンデンサも不要ですが、この場合、プレート抵抗をオリジナル定数の約2/3にするのがよい、そして次段、5極管グリットへの結合コンデンサ容量を20倍程度、他に5極管部、カソードのバイパスコンデンサ容量も8倍くらいにするのが良いことがわかり、今回、変更しました。つまり、あくまでも何の変哲もない「標準的回路」への変更です。
結果、リンギング、歪、周波数特性のいずれも大幅に改善しました。管同士の配置が近すぎるため、特に高域のクロストークが大きいことはありますが(そもそもB電源をLRで分離していないため、低域がよくないのですが、それ以上に管同士の「近距離」が効き、高域がよくない。)それでもクロストークは最悪の20kHzで−53dB、(はじめは20kHzで最悪、−18dBでしたから、大幅改善です。)スピーカー再生ですからこのくらいで十分、再生周波数帯域は、はじめの96Hz〜20KHzから、27Hz〜20kHz、すなわちこのOPTの定格までに拡がりました。またS/Nも76dB(組み換えただけで10dBのアップです。これは今の新しい、特性の良い部品によるところが大きいです。)、リンギングは劇的、1kHz矩形波で、そのピークがはじめの約1/50にまで減少、歪もはじめは0.7W出力で1kHz、11%であったものが1.2%にまで低減、また規定−10dBV入力、VR最大でピッタリ定格出力0.7W、歪10%を超えるのは3Wから、ずばり「標準的性能」になっています。これなら大口径のモニタースピーカでもきれいに鳴らせます。測定数値上も顕れますが、まあこの程度にまでにすれば、聴感上も例えば低域の「ウソ臭さ」が消え、「ごく普通の音」で快適です。「定格や測定値に縛られたらいい音は得られない」などと言われる方もいますが、実はこれは逆で「いい音が得られるアンプは別にあちこち細かく検討、測定してみなくても、ちゃんと定格動作になっている、回路にも部品配置にも矛盾はない。」です。だから「妙な音がするアンプ」、特に真空管式の場合には、もう「覚悟を決め」、あれこれ測定しながら見直していくしかないわけです。そして本気で「究極の音」を求めるのであれば、例えばレコードの収録時の条件を考え、その録音にあわせたアンプ、すなわち「1曲のための1台のアンプ」とするぐらいでないと難しい。すなわちアプローチは違いますが、結局は佐久間 駿さんなどがおっしゃっている、同じところに到達します。佐久間さんの「佐久間式アンプ」は「耳で作られるアンプ」ですが、これが実によくできている、どういうことかと言うと、佐久間さんの若き日の経験は音声技術者の研修そのもので、佐久間さんの「聴覚全て」が「精密測定機」になっている、つまり、佐久間さんが「基準」の「生音」をよくご存知ということで、だからひとつひとつ「ドンピシャ」のところが出てくる。佐久間さんのアンプは決して「芸術品」ではなく、理論的整合性のある「音響用品」です。佐久間式アンプを作りたければ、とにかくまずは生音、生楽器、生歌を聴き、「音楽とは何か」を知ることです。それが嫌、できないのであれば、定格や測定値に縛られる以外にいい音を得る方法はありません。実際、クラシックコンサートにすら通ったこともない、生音を知らない人に限って、高価なオーディオ機器について、偉そうにああだこうだ、例えば「値段の割にがっかり」などと厳しく批判される向きが強く、閉口してしまいます。楽譜すらまともに読めないのがああだこうだと言うんですから、言われる側は大迷惑。例えばそんな100万円のアンプを買うほどの経済力があるのであれば、その100万円でまずは100回くらい、コンサートに行って生音を聞いて下さい。それから100万円のアンプの音を聴いて下さい。真の実力差、価格相応であることがわかるはずです。音響製品も全て「商品」ですから100万円のアンプであっても「1円でも安く」で鎬を削った結果のものです。と言いますか、コンサートにカネを突っ込んだ人は「録音の限界」が見えますから、それぞれの機器についてもうとやかく言うことはなく、それこそ佐久間さんのように、「この私の好きな楽曲の録音だけはできるだけ生音に近く!」でシステムを考えたりもしますし、私のように毎日毎日「何でもかんでも」の本職、あるいは本職だった人は、「も〜オトはたくさん!1000円のラジオ1個あればいい。」になってしまったりすることもあります。私も例えば631を着けると「仕事モード」になり、頭が疲れてしまいますから、普段のテレビ、ラジオは廉価品、しかもごく控えめな音で「流し聞き」、それよりも「自然の音」を好みます。本職時代、勉強で通ったコンサートは300回くらい、収録は優に2000回を超えていますから、もう、たくさんです。
とりあえず何にしても電子デバイスの使用はやはりまずは「メーカー所定」とするのが良好な結果を得るコツです。結局このアンプで「標準」と違うのは、今は音声素材が格段に良くなっているため、それに対応して電源のレギュレーションをよりアップしないといけない、このことから電源回路の電解コンデンサの容量を大きくしているくらいです。本当はもう古典的な抵抗分割などをやめてオール半導体とし、ヒータも直流点火にすればもっと良い結果=100dBくらいのS/Nが得られますが(50/60Hz交流点灯用の傍熱管でも、概ね70から80dBを超えるS/Nとするためにはもう、直流点灯とする必要があります。ですがまあ70dBくらいにまで追い込めばもう、スピーカに耳をピッタリくっつけてハム音がわかる程度になり、実用上の支障は完全になくなります。)、その場合にはPCBを取り払っての全組み直しになるし、当然、1万円札が3枚くらい飛んでいくことになることから「面倒くさいことなし。必要が満たされればそれでよし。」の私としてはやりませんでした。
筐体も磨いて新品の輝きです。発熱するため、良好な環境で使っていても20年も経つとかなり汚れます。ついでにもう大概くたびれている真空管も交換したく、Svetlana社製のものをと思っていたところ、SIEMENS社製の未使用品がガラクタ箱から出てきたため、それにしました。真空管時代後期に作られたこのタイプの新しいミニチュア管は、余裕のある標準的な回路であれば、聴いてはっきりわかるほどの製造社による違いは出ないですから、どこのメーカー品でもOKです。今回、16cmのフルレンジでも快適な音になりました。
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