ヘッドホンあれこれ-3b
〜幻のELEGA DR−232CHのMECAT化修理〜
2ウェイヘッドホン 藤木電器 DR−232CH
藤木電器の2ウェイヘッドホン、DR−232CHを入手しました。廉価な高音質品のため1978年発表以来、藤木電器時代の最後、1985年まで製造販売されたロングセラーですが、後継社に引継ぎされず、ディスコンとなった民生用ヘッドホンです。かなり注意して保管されていたようで、オリジナル状態の上、イヤパッドも含めて外部はほぼ完全です。

しかしこのヘッドホン、安価な民生用量産品のため短寿命設計、きちんと保管していても経時により中が壊れていくことから、ELEGAブランド以外で出されたものも含めて2017年現在、もうおよそみることはありません。このため一部マニアの方の間では幻のヘッドホンのひとつともされています。しかしそもそもヘッドホンは消耗品、民生用はさらに「音の流行への追従」がありますから、残すのは「技術」、モノ自体はどうでもよかったりします。特に業務用、民生用とはっきり分けていた藤木電器のヘッドホンにはその根本のところが明確に設計に反映されており、民生用ヘッドホンはどれも安価な材料を用いた「必要最低限のコスト最優先」、同時期の他社製品と比べても、長期耐久性に劣る、その代わり半分あるいはそれ以下の価格で音は価格をはるかに上回る、つまり、コストパフォーマンスに優れていました。このことから業務用モニタ、DR−531、631などがよく残っているのに対し、民生リスニング用各機は「影も形も無い」と言ってもよいくらい残っておらず、残っていてもおよそ全てが故障しており、数少ないこれらも使えない、外観もボロボロになっていくことからいずれ捨てられてしまいます。過去、日本最大のヘッドホンメーカーとなり、ダイナミック型ヘッドホン市場を独占した、ものすごい機種数、また各機種、ものすごい出荷数にもかかわらず残っていないのはこのためです。

この機体も音は出るのですが「まとも」ではありません。中高音がほぼ全く出ません。心臓部、ドライブユニットが壊れています。すなわち普通にはとうに捨てられているもの、よくもまあ、捨てられずに残されていたものです。

さてこの2ウェイ型のメリットは、低音と中高音で振動板が別であるため、低音を強くしても中、高音がそれに引きずられずに明瞭、さらにこのことから複雑なハウジング構造を省略でき「薄く軽く」できることです。

特に音楽では、広いさまざまな周波数、波形の音声電流が「同時に」ボイスコイルに集まるため、原理的にそれを同時に音波変換するのは難しい、すなわちボイスコイル直結の振動板で共振あるいは強め合い、弱め合いの関係になる音声電流が来ると、正しく音波に変換できない問題があります。これが「再生周波数特性はよいのに、思ったよりもよい音がしない」の原因のひとつです。周波数特性は各純音(各ひとつの音)でみていますから、これについては再生周波数特性線図にあらわれません。

このことから、シングルドライブユニットでは、周波数を離して上下(いわゆるドンシャリとする)か、上下をカットして(いわゆるかまぼことする)かのどちらか、そして最終的にこの両者の「兼ね合い」で調整しなければならないことから高価なものになりますが、これにはそれがなく、ドライブユニットは言ってしまえば、低音用は低音が出ればまあ何でもいい、中高音用は中高音が出ればまあ何でもいいで、いわゆるコストパフォーマンスが原理的に最高になります。同じことはスピーカについても言え、同一性能であれば、フルレンジよりも2ウェイあるいは3ウェイスピーカのほうが簡単で安価になります。

しかし何としてもこれはヘッドホンです。

2ウェイ型のデメリットはドライブユニットが2個、大型化することです。2個の発音体を「縦」に配置する方法もありますが、今度はどうしても「厚く」なりますし、複雑なハウジング構造も必要になります。決定的なこれゆえに、音質改善の目的では小音量で済む、一部のマグネチック型イヤホンなどを除いて作られなくなりました。特殊なサラウンド用のものなどについては複数のドライブユニットを搭載したヘッドホンが作られています。しかしこれはいわゆる多チャンネル、それぞれに全く違う音を再生する目的からのもので、シングルチャンネルの音質改善の目的からのものではありません。

DR−232CHはいわゆる使い捨て設計、その寿命は10年ほど。外は保管また手入れ次第で長持ちさせることができますが、手入れのできない内部はそうはいきません。空気中の酸素と湿気で徐々に劣化していきます。変な幸いで、イヤパッドの接着剤が完全に劣化、上手く剥がすことができたため、開けてみると中はもっとボロボロ、およそ作りなおしの大修理です。
しかしすごいのは製品製造の1978年当時、グラスウールなどを既に採用していることです。これらは他社に先行すること実に10年です。さらにドライブユニットもろもろ、もう今の各社民生用ヘッドホンと変わらず、「手作り部分」のとても少ない安価な量産型です。すなわち藤木電器によって1978年には今日の日本の民生用量産ダイナミック型ヘッドホン「も」完成されています。今日、「はぁ?今さらエレガ」という方も多いですが、何のことはない「中身は今もエレガ」で、具体的なところは申し上げられませんが、各社の現行機種、藤木電器またその後継社から技術供与を受けてそれに従い作られているものがいくつかあります。

いわゆるリスニング用ヘッドホンです。お客様から「うるさすぎる!」との声が出たのでしょう。中高音を意図的に抑えてあります。加工方法から使用者によるものではないこと、また「上張りの布と合わない、コストアップになっている不細工さ」から、後で工場で急いで加えたものであることがわかります。何せ2ウェイです。「低音ズンズン」の上、中・高音がはっきり出てきますから、当時のお客様には耐えられなかったかも知れません。実際、今の「ドンシャリヘッドホン」に慣れている方にとっても辛い程度です。しかしここは「後付け」、原設計に戻し原設計の「やかましい音」を聴くことにしました。

左写真、見た目はきれいですが、継続使用できるのは板とリード線、唯一、業務用ヘッドホンと共用の長寿命品である低音用ドライブユニットだけです。中高音用のドライブユニットにはLR共に湿気侵入、腐食によるボイスコイル断線を起こし、内部には錆がたまっていました。これはもう丸ごと入れ替えて修理する以外にありません。右写真が修理後です。あれ?どこかで見たようなドライブユニットが…はい。同口径の100円のヘッドホンのドライブユニットを選別して細工したものです。何せ「中高音が出ればいいだけ」のものですからこれで十分。しかしこれ、インピーダンスが低いことからこっちが主に鳴ってしまいます。なお、もとのドライブユニットはどちらもそのインピーダンスは100(Ω)、並列接続のため、全体として50(Ω)です。「バランスはこんなものだな」で、制限抵抗器を入れました。つまり「耳で合わせた」わけですが、結局、もとのものとほぼピッタリ、全体として実測インピーダンス48(Ω)になり、もとの公称50(Ω)機とすることができました。また今回は「動態保存」が目的、長寿命の材料と接着剤を用い、外がボロボロになり、静態保存となるまで十分に耐えるものとしました。

布張り交換、グラスウールの代わりにネコの毛をハウジング内にしっかり充填して閉じ、清掃、給脂したイヤパッドを外れない程度に接着して完成です。

今の10万円超えのリスニング用モデルの音に全く負けません。原理的に当たり前のことですが、強くはっきりした低音の中にまた強くはっきりした中高音、生々しくて気持ちが悪いくらい。これが「エレガの幻の音」です。40年前には世に認められなかった音。しかしハイレゾのこれからはやはりこのタイプの音です。実際、低音用ドライブユニットを50mmのものにすれば、このままでハイレゾ対応します。今はこのタイプの音を1個のドライブユニットで作ることができるようになっています。しかし相当に手間がかかることからコスト高。対して思い切ってドライブユニット=振動板を分けたこれは手間がかからずじゃんじゃん安価に量産できる、今日でもコストパフォーマンスで他の「方式の」追従を許しませんから、今後再び同様のものが各社から登場してくることになるかも知れません。

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